- not same, but equal.
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光あれ、
HUNTERxHUNTER、キメラアント編ラストのパームに仮託して。
メルエムとコムギの最期をたった一人見つめ続けた彼女の心情が、私に一番近しいなあと思います。




乱暴にさす朝の光が、瞼を突き刺す。
身じろぎし、無意識に右手をかざした。薄く目を開けて一拍、そうだ、と思い出す。
鱗に覆われた腕。朝日に照らされ、まばらに光る一枚一枚。
嫌悪感はない。私はそういうものになった。再構成された。それでも人間として生きてゆく、覚悟でもなくあきらめでもなく、あるがまま受け入れている。
ならばこの瞳からこぼれる涙はなんだろう。なぜこれほどに胸の虚を感じるのか。

わかっている。私の半分は蟻。
わたしたちは、世界を照らす光を喪ったのだ。永遠に。





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光あれ、





「随分、よくなったみたいね」
掛けた声に、隻腕の戦友はベッドの上でにっと微笑む。その眼差しにも力強さが戻ってきた。
「ああ、大分楽になったよ。夜も眠れるようになってきたしな」
「オメー、ほんと、無理ばっかしやがって」
笑顔のシュートの横でナックルが凄む。泣きたいのをこらえるためだ。入院している毎日こんな様子で、いつの間にか彼らの精神的な強さが逆転したような気がする。シュートは強くなった。ナックルは、さらに涙もろくなった。あきれたように笑うメレオロンともうひとり、涙もろいイカルゴ。もうずっと前から仲間だったかのようだ。
「ナックル、お前何度目だ?そう言って泣くの」
「ばっかてめ、泣いてねーだろ!これはアレだアレ、心の汗だ!」
やり取りを聞きながら、パームは持ってきた花を活ける。窓を開け放つと快い風が首筋をさらった。明るいやりとりが耳をくすぐる。
こんなに病室が弾んだ空気に満ちるのも、ゴンが回復してからのことだ。シュートよりも更に酷い状態で病院に収容された彼。気配ですら伝わってくるおぞましい病状を、誰もが絶望の中見つめていた。助かったのはハンター協会から派遣された世界にふたりとない除念師の功、ということに表向きなっているが、ここにいる仲間は皆知っている。ゴンの親友が——キルアが、彼を取り戻したのだということに。
蟻達との戦いで皆、多かれ少なかれ犠牲を払った。だが友との絆は決して分かたれないものになった。だから皆、失ったもののことはもう、口に出さない。
私も。



「…ーム、パーム!おいってば」
呼びかけに気づいて、くるりと振り返る。何回呼ばせんだ、とナックルがあきれ顔に呟いて、言葉を続けた。
「どうかしたのかよ、おまえ」
「何でもないわ。いい風が吹くなって」
にこりと微笑むと、うーとかあーとか不明瞭な言葉で顔を赤くし、外を向く。シュートが面白そうにその様子を見ながら、穏やかに話しかけてくる。
「パームは少し変わったな」
「そうかしら?」
「ああ。念が、強く美しくなった」
お主の念が最も強く美しい。
「そんなこと言えるようになったなんて、シュートこそ変わったんじゃないかしら」
軽口を繰りながら、胸によぎった影を、言葉をそっと払う。鈍く痛むのは何処なのか。
なめらかな鱗に覆われた腕を掲げて見せた。
「まあ、変わったというのは間違いないわね。私の半分は蟻だし」
「そういう意味でいってんじゃねえよ!」
激高したナックルを静かな目線で見つめる。彼はきっと、私が自身を卑下したと思っているのだろう。
「怒る必要ないわ。私は今の自分も気に入っているの」
獣に近しい部分を得ることによって、きっと人間の私の中にあった狂気が、うまく折り合いをつけられるようになったんだと思う。
呟いた言葉に、パームは自ら頷く。この体で生きていくと決めたのだ。もう迷わない。
「俺も、パームと一緒だよ」
メレオロンがふうっとタバコを吐いて続けた。
「俺も今の自分が気に入っている。くすぶって、虎の威借りたがって、誰彼かまわず吠えてた人間の頃のほうが、よほどひどいモンだったぜ」
からからと笑う姿に、イカルゴがそうだ、おまえらはまだニンゲンの形してるだけいいだろ、オレなんかタコだぞ!せめてイカにって思ってたのにタコだぞ!とかぶせると、どっと場が崩れた。
パームも笑み崩れると、安心したようにナックルがへっ、と鼻をかく。
こんなにも、満たされている。満たされているじゃないか。
鳥が一羽、窓の外、大きくはばたく。



よぎった影を見つめたメレオロンが、ふとこぼす。
「そういえば、ゴンは、そろそろあっちについたかね」
「日数的には、そろそろだろうな」
壁掛けのカレンダーの日を数えて、シュートが目を細める。あいつ病み上がりの癖にあっちこっち飛び回りすぎなんだよ、とナックルが毒づく。イカルゴは、オレも一緒にいきゃよかったといまさら悔しがっている。
ゴンは回復後、カイトに、そしてジンに会いにいった。一度シュートを見舞いにきてくれた彼の顔は憑き物が落ちたように晴れやかな瞳をしていた。きっとけじめをつけることができたのだろう。
オレ、もう一つ行かなきゃいけないところがあるんだ。そう言って鉄砲玉のように飛び出していったゴンは、今、スピーナの生まれ故郷へ旅に出ている。彼女との約束を果たすために。
「季節もちょうどいいし、きっと見れるわ。…コクチハクチョウの飛翔」
ゴンのことになるとみんなが、笑顔になってしまう。
笑いながら、この姿になって初めて、彼と見えた日のことを思い出していた。








『ごめん。…オレ、パームを守れなかった』
ゴンはそう言い、彼女の腕に触れた。何の嫌悪感も見せず、ただ小刻みに震えながら腕を握るその温度を、途方もなくやさしく思った。
『何も、謝ることなんかないのよ』
膝立ちになり、涙を堪える彼の目と目を合わせる。
『みんな自分の覚悟に生きてるだけ。カイトもそうだった。私もそう。ゴンも、そうでしょう?』
瞬きした彼の瞳から涙が一粒こぼれる。
『私のことを醜いと思う?』
ちいさく尋ねると、ゴンは思い切り首を横に振った。そして、きつく、抱きついてくる。
ああ、小さな子供なのだ、まだ。
『パームはきれいだよ。前も今も。…オレ、パームに会いたかったよ、ずっと』
『…ありがとう。ゴンがそう思ってくれるなら、私は何も変わらないでいられるわ』
ゴンの頭をかき抱いて、撫でる。ひとつ小さな嘘をまぜて。

——コムギというひとにあいたい。それだけだ。

彼もまた、幼子のようだった。










ゴンが眠り続けていた間、彼女はひとつの終焉を見届けていた。
蟻の王が果てる様を。その傍らに寄り添い続けたひとりの少女を。
右目が映すシーンに言葉はない。
ただ、無音の彼らを見守り続けた。



語るように、あるいは、ながい旅路を共にするように。
黒駒と白駒とが棋面を交錯する。
歌うように、あるいは、いとおしむように。
異形の手と少女の手とがふれあい、かたく、握られる。



——どこかで、何かが、違えば。
——否、すべてが帰結した今だからこそ。
血を吐き、倒れ臥し、何も見えなくなって、最早体すら起こせなくなって。
人間という悪魔の前に沈んでゆく王を目前にして、パームは彼の遺した言葉を何度も胸の裡で繰り返した。

——コムギというひとに会いたい。それだけだ。
——残された時間を、コムギと過ごしたい。それだけだ。他には何も望まない。
抱き上げ、手を握り、何も見えなくても、自らの命が消える間際までも。
そうして王に添い遂げた少女を目前にして、パームはあの告白を、何度も、思い出していた。



やがていくつかの囁きがあったのち、王は穏やかに瞳を閉じる。
少女はかれを膝に抱き、繋いだ手をもう一度、静かに握りしめて、微笑む。
うすく砂嵐がかかり、少女の口元が何を紡いだのかはしれない。
ノイズ、やがて、ふっと映像が途切れる。


言葉は届かない。何も、パームには聞こえてこない。
ただ王の唇は最期、確かにかたどったのだ。
ありがとう、
と。














この終わり方しか選べなかった。
私が王の死を見届けると伝えた時も、仲間たちは信じてくれた。だから決して言葉にはしない。こんな想いは人ではない。
ああでも、さいごは、どちらが人だったのか。
何が、人なのか。












王。
わたしたちを導く、たったひとつの存在。
かけがえのない光。
あなたは王だった。わたしたちの未来そのものだった。
なぜ、
あなたを、
このような形で、喪わなければならなかった。












「…お、ゴンからメールきてるぜ!ムービーつきだ」
パームも、そっちのPCで見てみろよ。
不意に呼ばわれて、意識を引き戻す。メレオロンがうきうきと覗き込んでくる、それに応えるようにメールボックスを開く。
開いた途端、画面いっぱいに、朝焼けが広がっていた。
『オレ、いまスピーナとカイトとあとえーと、とにかくみんなと一緒にコクチハクチョウの生息地に来てるよー。あともう少し、もう少しで飛翔の時間なんだって…ほらっ!』
瞬間、何千何万のコクチハクチョウ達が、朝日に向かって一斉に飛び立った。わああああああ!と興奮したゴンの声がこだまする。おおお!と、画面のこちら側でも、皆が歓声を上げる。
嘴が日に照らされて赤く光る。羽がきらめく。シルエットになってゆく鳥達を見守る人間と、人間だったものたち。
ちっぽけな命の、廻る巡る。
皆が笑顔だった。
——そう。王と少女も、さいごまで、笑っていた。








イカルゴにも声をかけようとして、パームは思わず目を細めた。
窓の外で鳥のつがいが飛び立つ。語るように、踊るように、ながい旅路をゆくように。
かれらの魂の軌跡がゆきつく先が。廻る巡る、命の緒のつながる先が。
どうか二度と分かたれないといい。この上なく美しい朝焼けの元であるといい。










その日まで私はひとり、この喪失を忘れないでいよう。
滅びゆく種族の最後を、生きてゆこう。






















浮かんだ涙を悟られないよう、そっと瞳に押しこめる。
見上げた窓の先、つがいの鳥は既に雲の彼方だった。




















End.
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