- not same, but equal.
<< August 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

<< いろいろ | main | 真央さん、直樹さん、そして >>
Bliss
何年ぶりかに楊太を書きました。



===================================



思い出した。
数年前のことだ。雨に濡れた夜の明かり、が、高速で過ぎ去ってゆく。その中に立ち止まるように無表情で晒されている、電車の窓に映る自分の顔を見ていて、そのことを。

「だけど、会いたくないよね」

酔っぱらった若い男女の甲高く、軽妙な響き。言えてる、と一際盛り上がる団体の、ちょうど斜め後ろにいた。
巻き髪を揺らして頬を上気させた女性が言い募る。「ほら、」酔い崩れる彼女を脇から支える男性も楽しげだった。

「イメージ崩されたくないていうか」
「ああそうだよね。誰とも仲良くなかったもんね。あのひと」
「だから、そのミステリアスな雰囲気のままでいてほしいというか。高校生のとき見た夢みたいな、そういうポジションなんだよね」
「わかるー。普通に働いてるイメージないもん」

普通に働いてるけどね。と。おどけ笑っておどかせるような性格なら、そんな話題にのぼることもなかっただろう。
偶然にしては間が悪かった。

「会いたくないよね」
「今どうなってるかなんて想像したくないー」
「えー、俺らはいいの?」

何言ってるの、わたしたちはずーっと前から仲間でしょ…
静かに席を立つ。笑い声が遠のく。特段気にしていない。同じクラスメートだっただけで、そんなに仲良くしていたわけでもない。僕は僕だ。彼らとはもう無関係なのだ。たまたま郷愁にかられて入った懐かしい駅の居酒屋で、小さな同窓会に背中合わせで居合わせた。それだけのことだ。

帰り道は雨だった。雨に濡れた暗い町並み、閉店後のウィンドウに映る自分の顔は、黒一点の無表情だった。





「そりゃ、傷ついたろうな」

帰路の先に灯るあたたかい家で、彼はそう、震える猫を抱き上げるように言った。
2.5シーターのソファの端っこに小さく膝を抱えるように座り、淹れたてのコーヒーを大事そうにすする。自分ではうまく淹れられないから、と、帰宅一番に要求された仕事。真っ暗闇を溶かしたそれを、彼はこともなくこくこくと飲む。

「なんでそんなことを今更思い出したのだ?」
「雨で、夜で、寒かったからじゃないですか」

本当は自分でもよくわからない。
通り過ぎる景色に潜む記憶のトリガー。何気なく触れるその瞬間までは思い出しもしないのに、引いたが最後、それは魔物のように思考を塗り潰す。
いやもう実際は、と、笑う。彼と同じようにソファの反対側に膝を抱えて、マグを持って座る。

「もう全然、今はどうでもいいことなんですけどね。自分がそうした人間関係しか構築できなかったのは仕方のないことだし」
「うん」
「あのとき誰がそう言ってたのかももう、よく思い出せないし。」
「うん。」

彼はただ頷いていた。いつもそうだ。本当に話を聞いてほしい時、かれは言葉少なになる。僕が吐き出して、はきだして、空っぽになるまで待っていてくれる。

「うん。うん。うん。」
「…聞いてます?」
「ん?おう。」

若干、適当ではあるけれども。

「いつもそうやって、流すんですから。僕の話なんてどうでもいいんですもんね、あなた」
「イヤイヤソンナコトハナイゾー」
「思い切り棒読みですけど。」

めめしいやっちゃのう、とつぶやいた彼を横目で睨むと、彼はどこ吹く風でコーヒーを飲み干し、マグをかたんとサイドテーブルに置いた。
ころりとソファの上に寝そべって欠伸をする。細めた瞳も、腕をのばす仕草も猫のまま。僕らはふたりとも、猫なのだ。
彼の腕が僕の左腕をつかむ。ちょっとコーヒー持ってるから危ないんですけど、と咎めた声も聞こえていない。僕の腕を捕らえるように抱えて、指をからめる。ことさらいたずらげに微笑んだ。

「おぬしが今は、幸せだという話だろう?」






幸福の意味を、ずっと定義できずにいた。
勉強ができれば。
スポーツが得意なら。
友達がたくさんいれば。
仕事ができれば。
打ち込める趣味があれば。
あなたがいれば。
あなたがいなければ――――


「幸せだと少し忘れっぽくなるんですかね」
「なぜだ?」
「もう昔どれだけ寂しかったか、思い出せなくなっているんですよ」

あなたと一緒に、いられるならば。

「そんなものかのう」
「あなたもそうだといいんですけど」
「わしはわりと、前しか見ない人間だからな」
「嘘つき」

絡まった指先を持ち上げて、お菓子がわりに口づける。
さかさまの笑顔に、いつかのような陰がもう無いことを、ただ切に願っている。


あなたが今、ここにいる。
どうかこの幸福に、一緒に慣れないようにいたい。


真っ暗闇を飲み干した先に浮かび上がる、淡い瞬きごと、やわらかく抱きとめる。











Oct-21, 2013
スポンサーサイト
さきさん、こんばんは☆
真央です。

先日は、川口暮らふとでお会いできて、とても嬉しかったです(*^^*)

そしてそして!
お話読みました!!
やっぱり、さきさんの書かれる二人が大好きです(*><*)

・・・サイトを休止されていたのには、
悲しい理由があるのだと察しております。

それでも、またこうして、さきさんがお話を書いてくださることを、心から嬉しく思っています。

これからも、ずっとずっとさきさんのお話を楽しみに待っています。
そんなファンがここにいることを、忘れずにいてくだされば、とても嬉しいです。


さきさん、素敵なお話を本当にありがとうございました(*^^*)

またお会いできる日を、楽しみにしていますね♪♪

真央より
真央 | 2013/10/24 22:00
さきさまの書く楊太がまだまだ読めるなんて!

たくさんの言葉が今はありますがとりあえず、ありがとうございます。今からまた読み返してきます
直樹 | 2014/01/12 22:18
COMMENT